食品の商品開発では、原料や価格、パッケージ、販路など、考えることがたくさんあります。どんな素材を使うのか、いくらで販売するのか、どんな形で届けるのか。スーパーなのか、百貨店なのか、ECなのか。誰に向けた商品なのか。商品を形にするまでには、多くの要素があります。
でも、最終的に「また食べたい」「人にすすめたい」と思ってもらえるかどうかを左右するのは、やはり味です。どれだけパッケージがおしゃれでも、ストーリーが魅力的でも、一度食べて「もういいかな」と思われてしまえば、長く選ばれる商品にはなりにくい。反対に、最初は目立たなくても「これ、おいしい」「また食べたい」と思われる商品は、口コミやリピートにつながっていきます。
だから食品の商品開発では、味づくりを後回しにすることはできません。そして、味づくりは単に「濃い・薄い」を調整することでもありません。素材の香り、口に入れた瞬間の印象、うまみの重なり、塩味や甘味とのバランス、食べ進めたときの変化、食べ終えた後に残る余韻。私は、こうした一連の流れまで含めて考えることを「味の設計」だと捉えています。
商品開発では「おいしい素材」だけでは足りない
食品の商品開発でよく聞くのが、「素材がいいから、おいしい商品になるはず」という考え方です。もちろん、良い素材を使うことはとても大切です。地域には、その土地だからこそ作られる野菜や果物、魚介類、肉、発酵食品、調味料など、魅力的な食材がたくさんあります。生産者が長い時間をかけて育ててきたものや、昔からその地域で食べ継がれてきたものもあります。
ただ、素材そのものがおいしいことと、商品として完成したときに「選ばれる味」になっていることは、必ずしも同じではありません。たとえば、とても香りの良い野菜があったとします。その魅力を伝えたいからといって、味をどんどん濃くしたり、調味料を重ねすぎたりすると、肝心の野菜の香りが消えてしまうことがあります。
反対に、素材を生かそうと考えすぎて味付けを控えすぎると、「素材はいいけれど、商品としては少し物足りない」と感じられることもあります。ここが商品開発の難しいところです。素材をそのまま見せるのではなく、素材の魅力が食べる人に伝わる状態まで整える必要があります。
何を足すのか。それと同じくらい、何を足さないのか。どの味を最初に感じてもらい、どの味を後ろに置くのか。主役の素材を決め、その魅力を邪魔するものを減らし、必要なものだけを加えていく。商品開発における味づくりは、足し算だけではなく、引き算でもあります。
だしを知ると、素材同士の関係が見えてくる
私は長く、だしの世界に関わってきました。だしを学んで面白いのは、一つの素材だけを見るのではなく、素材と素材の関係を見るようになることです。
昆布とかつお節、昆布としいたけ、かつお節と煮干し、野菜と昆布。素材はそれぞれ単体でも味を持っていますが、組み合わせることで、うまみの感じ方や香りの立ち方が変わります。
よく知られているのが、昆布に含まれるグルタミン酸とかつお節などに含まれるイノシン酸を組み合わせることで、うまみをより強く感じる「うま味の相乗効果」です。でも、実際の商品開発で大切なのは、うまみ成分だけではありません。
かつお節を強くすれば香りも強くなります。昆布を使えば味に厚みが出ますが、使い方によっては重く感じることもあります。しいたけにも独特の香りがあります。つまり、理論上うまみが増える組み合わせだからといって、必ずしもその商品に合うとは限りません。
ここでも必要なのは、「何を組み合わせるか」だけではなく、「どのくらい使うか」「何を主役にするか」「何を後ろに置くか」という設計です。これは食品の商品開発でもまったく同じです。
主役となる素材を決めたあと、その魅力を引き立てる素材は何か。逆に、せっかくの特徴を邪魔してしまうものは何か。一つひとつの素材を見ると同時に、素材同士の関係を見る。だしを長く扱ってきた経験は、商品開発の味づくりにも大きくつながっています。
味は「最初・途中・余韻」で考える
味を考えるとき、私は一口の中にも流れがあると考えています。最初に感じる香りや印象、口の中で広がる味とうまみ、そして飲み込んだあとに残る余韻。この3つを意識すると、味の見え方がかなり変わります。
たとえば、口に入れた瞬間は「おいしい」と感じても、後味が強すぎると、何度も食べたいとは思わないことがあります。反対に、第一印象が弱すぎれば、食べた瞬間に商品の特徴が伝わりません。
また、後味そのものが悪いわけではなくても、主役にしたかった素材とは別の調味料の味ばかりが最後に残ることもあります。これでは、「○○を使った商品」とパッケージに書いてあっても、食べた人の記憶にはその素材が残りません。
だから試食するときも、単純に「おいしい・おいしくない」だけで判断するのではなく、最初に何を感じたか、途中でどんな味が広がったか、最後に何が残ったか、という流れで見ていきます。
香りもとても重要です。人は食べ物を口に入れる前から、香りによって味を予想しています。袋を開けた瞬間の香り、料理から立ち上がる香り、口に含んだとき鼻へ抜けていく香り。こうした要素まで含めて「味」だと思っています。
数字では表しきれない部分ですが、食品の商品開発では、この感覚的な部分がとても大きいのです。
味を濃くすれば「おいしくなる」とは限らない
商品開発の試作では、「もう少し味を強くした方がいいのでは」という話になることがあります。もちろん、本当に味が弱い場合もあります。でも、味が伝わらない原因が、単純に薄いからとは限りません。
塩味を強くしても、素材の魅力が伝わるとは限りません。うまみを増やしすぎれば、重たい味になることがあります。甘味を強くすると食べやすくなる一方で、素材本来の風味が分かりにくくなることもあります。
そこで一度、「何が足りないのか」ではなく、**「何を伝えたい商品なのか」**に戻って考えます。主役は何なのか。その商品の一番の魅力は何なのか。そこが明確になると、必要な味と不要な味が見えやすくなります。
商品開発では、味を強くすることより、味の焦点を合わせることの方が重要な場合があります。
「誰が、いつ、どう食べるか」で正解の味は変わる
味づくりに絶対的な正解があるわけではありません。同じ素材を使った商品でも、誰に向けて、どんな場面で販売するのかによって、求められる味は変わります。
毎日の食卓で食べてもらう商品なのか。お土産として持ち帰ってもらう商品なのか。ちょっと贅沢をしたい日に選ぶ商品なのか。忙しい日に手軽に食べる商品なのか。お酒と合わせるのか、お茶と合わせるのか。朝食なのか、夕食なのか。一度にたくさん食べるものなのか、少量を楽しむものなのか。
こうした食べる場面を考えずに味だけを決めると、商品としての方向がぼやけてしまいます。たとえば、一口試食ではインパクトのある濃い味が評価されても、一袋を全部食べると重く感じることがあります。
試食会での「おいしい」と、実際に購入して日常的に食べたときの「また買いたい」は、必ずしも同じではありません。だから私は、商品を考えるときには、味そのものだけでなく、その商品が食べられる場面まで想像することが大切だと思っています。
試作は「正解を当てる」作業ではない
商品開発では何度も試作をします。一回目から完璧な味ができることは、むしろ少ないと思います。試作というと、「一番おいしい味を当てる作業」のように思われることがありますが、私は少し違う捉え方をしています。
試作は、商品の方向を確認する作業です。A案では素材の香りがよく出ている。B案ではうまみは強いけれど、少し重い。C案では後味はきれいだけれど、最初の印象が弱い。そうした違いを見ながら、「この商品の魅力はどこにあるのか」をだんだん明確にしていきます。
だから試作のときに必要なのは、単純な多数決だけではありません。「Aが好き」「Bがおいしい」という感想も大切ですが、その理由をもう一段掘り下げる。なぜAが好きなのか。香りなのか、塩味なのか、食感なのか、余韻なのか。
理由が分かれば、次の試作で何を変えるべきかが見えてきます。
地域の食材を「商品として選ばれる味」にする
地域には、まだ十分に価値を伝えきれていない食材がたくさんあります。ただ、その素材を商品に入れただけでは、魅力が伝わるとは限りません。
「地元産○○使用」という言葉は、大切な情報です。でも消費者が実際に食べたときに、「なるほど、この素材だからこの味なんだ」と感じられなければ、商品の強い価値にはなりにくい。
地域食材の商品開発では、素材の背景やストーリーと、実際に口にした味がつながっていることが大切です。誰に食べてもらいたいのか、どんな場面で食べてもらいたいのか、どんな価格で販売するのか、どこで販売するのか、そしてその商品を食べた人にどんな印象を残したいのか。こうしたことまで考えながら味を設計すると、地域の素材は単なる「おいしい食材」から、「選ばれる商品」へ変わっていきます。
地域の商品開発では、「地元では当たり前」になっているものに、外から見ると大きな価値がある場合もあります。逆に、地域では有名でも、初めて知る人には特徴が伝わりにくいこともあります。
だから、素材の特徴を一度整理し、何を残し、何を伝え、どこを商品として整えるのかを考える必要があります。
地域の食材には、その土地ならではの魅力があります。でも、その魅力を「知っている人にしか分からないもの」にしてしまうのは、もったいない。外から見た人にも伝わる形に整える。味として伝わる形にする。商品として選びやすい形にする。そこまで含めて、地域の食材の商品開発だと思っています。
味づくりとパッケージは別々ではない
食品の商品開発では、味が完成してからパッケージを考える、という流れになることもあります。でも本当は、味とパッケージは完全に別のものではありません。
たとえば、やさしく繊細な味の商品なのに、非常に力強く刺激的なデザインになっていたら、食べる前の期待と実際の味にズレが生まれます。逆に、濃厚で贅沢な味の商品なのに、極端にカジュアルな見せ方になっていれば、その価値が十分に伝わらないかもしれません。
パッケージを見たときに想像する味。実際に口にしたときの味。食べ終わったあとに残る印象。これらが自然につながっていると、商品全体に一貫性が生まれます。
だから味づくりは、商品開発の一工程というより、ブランド全体を考えるための中心の一つだと思っています。
味づくりからブランドづくりへ
商品開発では、味だけを切り離して考えることはできません。味、パッケージ、ネーミング、価格、販売する場所、誰に届けるのか、その商品をどんな気持ちで手に取ってもらいたいのか。それらが一つの方向を向いたとき、その商品らしいブランドが生まれます。
だから私は、味づくりを商品の「中身」だけの話だとは考えていません。味を入口に、その商品の魅力や立ち位置まで整理していく。地域の食材や企業が持つ強みを見つけ、それを「選ばれる理由」へ変えていく。
商品を食べた人が、その味を通して素材や土地、作り手のことまで少し感じられる。そんな商品になれば、単に「おいしい」で終わるのではなく、その商品ならではの価値が生まれます。
食品の商品開発で大切なのは、流行の味をそのまま追いかけることでも、ただ味を濃くすることでもありません。その商品だからこそ届けられる味を見つけること。そして、その味を分かりやすく形にすること。
私はそれが「味の設計」であり、商品づくりからブランドづくりへつながっていく第一歩だと考えています。

